「きゃべちょ」(01.5.23.)


燃えるゴミ収集日のため、ゴミ袋を持って外に出ると、アパートの入り口の床にチョウチョらしきものが居る。昆虫類はあまり得意とはいえないが、30年近く生きていて見たことのない種類の大きなチョウチョだったので、ゴミ出し後に戻ってきてじっと見つめてしまった。
 それは、キャベツのような蝶だった。そう、まさに野菜炒め用にやや大きめに切ったキャベツのような風体で、真ん中のあたりに目玉のような模様があるのは外敵から身を守るためなんだろう。 見れば見るほどキャベツそっくりだ。淡い緑色といい、葉脈にあたる筋といい…。しかし全然動かない。よく見ると、周りに蟻ん子が集まってきている。そっか、もう息絶えていたのか。

   集まっている蟻ん子たちは今日のご飯でキャベツをどう使おうか話し合ってうろうろしていたに違いない。

   「まぁ〜こんなに大きなキャベツ、簡単には食べきれないわねぇ」
 「あら、うちはスープにするつもりですのよ」
 「いいわねぇ、うちもそうしようかしら。コンソメもあったはずだし…」
 「それにしても、どうやって持って帰ろうかしら、こんな大きなキャベツ」
 「そうよねぇ、小分けしてくだされば楽なのにねぇ」
 「ねぇ、ご近所の皆さんに声をかけて、みんなで持ち帰りませんこと?」
 「そうしましょうか、折角ですものねぇ」
 「じゃあ私、2丁目の皆さんを呼んできますね」
 「お願いするわね、私は5丁目まで行って来ますから」
 うろうろうろうろ、とことことことこ。あんまり急いでこっつんこ…いやお遣いではないな。

 アパートの部屋に戻る間考えた。あの蝶は何という名前なんだろう…。
 考えても仕方ないので、勝手に付けた。
 その名も「きゃべちょ」。なんと分かりやすい!そして憶えやすい!勝手に悦に入った。
 生まれてこの方見たことのない種類だから、今度会えるのは約30年後なのだろうか。もし関東圏以南に生息する種類だとしても、10年以上見たことのない種類だから、今度会えるのは10年以上後なのだろうか。それまでさようなら、きゃべちょ。

 …なぁんてしみじみしながら部屋に入ってネットで調べたら…蛾だった。
 さらに青森県の八甲田付近やら北海道の道東にも生息していた。お名前は「オオミズアオ」。
 オオミズアオ様、本日からあなたの別名にキャベチョが加わりました。お知らせします。


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